小児心臓外科の施設集約化を予想してみた

へい、らっしゃい。オペざんまい岡村です!

 

さて、前回・前々回と小児心臓外科の今後と題して、心臓血管外科学会U40で先天性プロジェクトのリーダーをされている都立小児の平野先生に記事を書いて頂きました。

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この中に昨年の小児循環器学会で理事長の坂本喜三郎先生より、「若手育成のために施設集約化は必須であり、理想的なトレーニングの為には1施設年間200例とすると、全国で46施設まで集約化を進めることになるかもしれない」という話がありました。ちなみにJCCVSD登録施設は全国で約120施設。

 

この数字はあくまで理論上の理想の話なので、実際にここまで施設を減らしてよいのかどうかはよく考えなければなりません。

 

 

小児心臓外科施設集約化の具体的な方法を考える。

 

まずはコチラのエクセルデータをご覧ください。

 

このデータは、以下のDPC病院情報局の全国統計のページにアクセスして、根気強く調べれば誰でも作ることが可能です。

全国の急性期病院の診療実績(患者数、平均在院平均など)を比較…

 

 

今回は、DPC病院情報局の全国統計ページで平成30年度のデータを用いて、

「診断分類」を「新生児系」

「傷病名」を「14029x 動脈管開存症、心房中隔欠損症」及び「14031x 先天性心疾患(動脈管開存症、心房中隔欠損症を除く。)」

に設定して、「都道府県」のところを47都道府県全てで調べました。

 

 

表示される項目のうち

・「14029x 動脈管開存症、心房中隔欠損症」は「弁形成術等」と「その他の手術あり」の患者数が多いランキング

・「14031x 先天性心疾患(動脈管開存症、心房中隔欠損症を除く。)」は「大血管転位症手術 大血管血流転換術(ジャテーン手術)等」と「ファロー四徴症手術等」と「心室中隔欠損閉鎖術 単独のもの等」と「その他の手術あり」の患者数が多いランキング

より患者人数を抽出しました。

 

 

参考資料として、エクセルシートの右側(M列)に、各病院のホームページに掲載されている小児心臓外科年間手術数を掲載しました。掲載のないものを「NA」としています。

 

 

(注意点)

・この方法では症例数が10例以下だと表示されないので、上記のエクセルシート内で「NA」としています。

・「14029x 動脈管開存症、心房中隔欠損症」の「その他の手術あり」にはカテーテル治療によるASD閉鎖術などが含まれていると予想されるので、webで確認できる範囲で小児心臓外科の手術実績がない16施設を除外し、残った69施設を以下の資料として用いました(エクセルシートのシート名「Sheet1」が検索して得られた全ての結果で、そのうち除外した病院にはグレーでハイライトしている。シート名「69施設」が今回用いるデータ。)

・以上2つの理由から、得られた手術件数は、概ね正確ですが、必ずしも実際の手術件数とは一致していないことを、ご留意ください。

 

 

ふぅ、やっとここからが本題です。

 

 

 

 

仮に小児心臓外科の施設で年間200例を、現存する施設で満たしているのはいくつあるでしょうか??

 

 

 

先ほどのリストから日本全国で以下の10施設です(※DPCと自施設HPのいずれかで200例未満の施設を()付き)。

 

榊原記念病院

岡山大学

福岡市立こども

国立循環器病研究センター

中京病院

神奈川県立こども病院

静岡県立こども病院

(兵庫県立こども病院)

(あいち小児保険医療総合センター)

(大阪母子医療センター)

 

 

おかむら犬
上位7施設は小児心臓外科「神7(かみセブン)」だな。

 

 

それでは、具体的な集約化の方法を考えていきたいと思います。

 

 

小児心臓外科の施設集約化の具体的例 その1 〜本当に46施設になったら??〜

 

もしも本当に小児心臓外科の施設集約化が進んで46施設になったら、具体的にどの施設が残り、日本全体で何が起こるでしょうか??

メリット・デメリットを考えてみます。

 

 

前回の平野先生の記事にもありましたが、46施設に減らすということは人口270万人あたりに1施設ということになります。

その為、計算上は各都道府県に必要な施設数は下図のようになります。

人口を270万で割った数字を都道府県名の右隣に記載しています。

また、人口270万人を下回る県は135万人まで1施設としています。

 

 

 

次に、各地域の人口あたりに必要な施設数は以下の通りです。

北海道が2施設

東北が3施設

関東が16施設

中部(北陸含む)が8施設

近畿が8施設

中四国が4施設

九州沖縄が5施設

 

 

 

 

これらを元に、具体的に施設を絞っていきたいと思います。

 

 

例えば、東京は5施設あれば足りるはずですが、先ほどのエクセルデータでは10施設もあるので、症例数で下位5施設は除外して別の地域に振り分けることにします。

一方、お隣の埼玉は、3施設必要なところ2施設しかリストアップされていないので、お隣の東京を1施設増やすことにします。

なので、東京は計6施設とします。

 

 

同じように各都道府県で調整を行なっていき、最終的に残った施設は以下の通りです。47施設になっちゃいましたが。

以下、順不同。

(北海道) 北海道大学、北海道立子ども

(東北) 宮城県立こども、岩手医大、福島県立医大

(関東) 筑波大学、北里大学、横浜市大、群馬県立小児、埼玉県立小児、埼玉医大国際医療センター、千葉県こども、松戸市立総合医療センター、榊原記念、都立小児、東京大学、昭和大学、慶應大学、順天堂、自治医大、神奈川県立こども

(中部) 中京病院、名古屋市大、あいち小児、岐阜県総合医療センター、静岡県立こども、長野県立こども、富山大学、新潟大学

(近畿) 京都府立医大、京都大学、尼崎総合医療センター、三重大学、国立循環器病研究センター、大阪母子医療センター、大阪市立総合医療センター、兵庫県立こども

(中四国) 岡山大学、広島市民、愛媛大学、四国こどもとおとなの医療センター

(九州沖縄) 鹿児島大学、熊本大学、長崎医療センター、福岡市立こども、JCHO九州病院、沖縄県立南部

 

分かりにくいので、地図にそれぞれの場所をプロットすると下図のようになります。

 

この方法で集約化を進めた場合に生じる問題点は以下の通り。

○小児心臓外科の施設がない県が17も存在する。

青森、秋田、山形、山梨、石川、福井、滋賀、奈良、和歌山、島根、鳥取、山口、徳島、高知、佐賀、大分、宮崎

・地方で適切な治療を適切なタイミングで受けられない患者さんが多発する。

・若手医師が都市部へ偏在して、集約化の名の下に地方医療の崩壊を加速させる。

 

 

 

こんなことは学会の提言として絶対にあり得ない訳で、つまり46施設まで集約化を進めるというのは99.9%無理だなと思う訳です。

 

 

 

なので、日本全国の小児心臓外科修練施設が症例数200例以上維持するというのは、物凄い少子化対策が進んで出生数が爆増しない限り、ちょっと現実的ではない気がします。

 

 

逆に、今回あげた47施設はもうちょっと緩い集約化が進んだ際には、ほぼ生き残るであろう施設ともとれます。

 

 

長くなったので今日はこの辺で。

次回は、もうちょっと実現可能な集約化案を提示しよーかと思います。

したーっ

 

 

次の記事はこちら↓

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