日本の小児心臓外科修練の今後 ~いまどこにいて、どこに向かうか~
都立小児総合医療センターの平野暁教です。管理人の岡村先生からの強い要望もあり、長文を書きました。
まだまだunder constructionな部分も多いので、この文章を数年後に読んで、今と同じ気持ちでいられるか不安ではありますが、日本の若手小児心臓外科のいまとこれからについて記載します。
2017年から日本心臓血管外科学会U-40の東京支部幹事をしています。U-40全体代表幹事から、「先天性プロジェクト」の立ち上げに声掛けいただき、さらに縁あって2018年の日本小児心臓外科医会(CHSS Japan)総会シンポジウムの演題のため、「若手小児心臓外科医育成」に向けたアンケートを実施しました。
成人・小児・末梢血管を問わず、総勢 220名の全国の心臓血管外科の先生がたからご回答いただき、結果は2019年の日本心臓血管外科学会雑誌に掲載されました。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcvs/48/2/48_2-U1/_article/-char/ja)
2019年の日本小児循環器学会総会中の「次世代育成シンポジウム3」にもお声かけいただき、今はなき某番組の「未成年の主張」ではありませんが、壇上で「こうやったら我々育ちますよ!」を展開してみました。
会場にいたUCSF 佐野俊二先生に一蹴されましたが、即座に名古屋の中堅の先生が佐野先生に一突きしたのが印象深いです。
今後の小児心臓外科修練
さて、これからの日本の小児心臓外科修練ですが、「施設集約」を軸に進んでいくことになります。
すでに2019年の日本小児循環器学会総会内で「先天性心疾患患者へ、新生児期から成人期までの長期間に渡って、継続的に・質の高い医療を提供するためには、切れ目のない次世代育成が必要であり、そのためには学会としても施設の集約化を目指す必要がある」という結論が出ています。
これは保守的な性質の日本人としてはあり得ない結論で、自らにも痛みを伴う施設集約化に対して、学会総出で向かって行こう!という結論になっている領域は小児循環器学会くらいではないでしょうか?
では、なぜ「次世代育成」のために「施設集約」になるのでしょう?
次世代育成のための施設集約化
留学に行かれている先生からの「留学する理由」の大半は「経験症例数」でした。誰でも自分が上手くなるためには、「経験数」が必要と考えます。
その絶対的経験数が日本では確保できない、だから留学をする、この構図から全く離れて留学をされる先生は少ないと思います。
センター化されている欧米諸国と異なり、実は日本の小児心臓外科施設の半数以上は年間手術症例数が50例以下の施設です。
それなら効率化のために集約化すればいいじゃないか、と仰るかもしれませんが、趣き深い日本人の性質上、そう簡単に集約化出来ていないのが今まででした。
地域性・医局など要因は様々ですが、これは実は成人心臓外科であっても同様で、潜在的な患者数が小児より多いために、まだそこまで取り沙汰されていません。
どの分野であっても医療資源・効率化・働き方の面から見て、集約化にメリットがあるのは事実です。当然、どの学会でも学会主導で集約化をしよう!という方向になんて、もちろんなっていません。
アンケートを実施してみて、「日本で出来ることは現状これですべてか?」という声が多く存在することがはっきりわかりました。
育てている立場の先生からも、育つべき我々からも、です。
上司として後進を育てる/次世代として育っていく、教育とはそもそも自分一人では全く成り立たないことです。日本小児循環器学会はようやくその相互性に気づき、「次世代育成」の場を作るべく今回のような「集約化」を推し進めようとしています。「施設集約化」により日本でも「若手の手術への大量暴露」が出来るような場をつくること、これがまさに「次世代育成」に直結することになります。
いま、我々はそんなところにいます。